我が家の平和な朝が、けたたましい鳴き声に破られるようになったのは、去年の春のことでした。最初はベランダの手すりに一羽の鳩が止まっているだけでした。「あら、お客様ね」なんてのんきに構えていたのが、すべての間違いの始まりでした。数日後、その一羽は二羽になり、手すりの上には見過ごせないほどのフンが落とされるようになりました。ここから、私と鳩との長い戦いが始まったのです。まず私が試したのは、インターネットで見た一番手軽な方法、キラキラと光るCDを吊るすことでした。鳩は光の反射を嫌うという情報に、これなら簡単だと早速実行しました。最初の数日は効果があったように見えましたが、一週間もすると、鳩たちはCDの隣で何食わぬ顔でくつろぐようになっていました。彼らが安全だと学習するのに、時間はかかりませんでした。次に私が手を出したのは、鳩よけ用の忌避スプレーです。鳩が嫌がる特殊な匂いがするというスプレーを、手すりや室外機周りにこれでもかと噴射しました。確かにスプレーした直後は寄り付きませんでしたが、雨が降れば効果は薄れ、毎日スプレーし続けるのはコストも手間もかかり、現実的ではありませんでした。そのうち、鳩はベランダの床を歩き回り、室外機の裏を覗き込むような素振りを見せ始めました。巣作りを始めているのではないかという恐怖に駆られた私は、今度は手すりの上に剣山のようなプラスチック製のトゲを設置しました。しかし、鳩は器用にもそのトゲのない僅かなスペースを見つけ出して止まってみせたのです。フンは床に落とされ、掃除の手間は増える一方。鳴き声で朝早くに起こされ、洗濯物を干すのもためらわれる。私のストレスは限界に達していました。もう自分では無理だ。そう悟った私は、ついにプロの鳩よけ業者に助けを求めることにしました。業者の方は、これまでの私の涙ぐましい努力を労ってくれつつも、「鳩の執着心は素人対策ではなかなか勝てません」と断言しました。そして提案されたのは、ベランダ全体を覆う防鳥ネットの設置でした。費用はかかりましたが、設置が完了したその日から、我が家のベランダに鳩が来ることは二度とありませんでした。あの静けさを取り戻したときの安堵感は、今でも忘れられません。安易な対策で時間と労力を無駄にする前に、もっと早く専門家に相談すればよかったと、心から後悔した出来事でした。