春先に女王蜂が一匹で作り始める蜂の巣。最初は数センチ程度の小さなものですが、なぜ夏から秋にかけて、あのように急速に巨大化していくのでしょうか。その秘密は、巣の構成員である「働き蜂」の増加と、それによる分業体制の確立にあります。蜂の巣が作られる日数を考える上で、この成長メカニズムの理解は欠かせません。巣作りを開始した女王蜂は、まず卵を産み付け、それを幼虫へと育て上げます。この最初の世代の世話は、全て女王蜂が一匹で行います。そのため、餌集めと育児、巣作りを並行して行う必要があり、巣の成長スピードは比較的緩やかです。この期間は、種類や環境にもよりますが、おおよそ1ヶ月程度かかります。最初の働き蜂(全てメスです)が羽化すると、巣の状況は劇的に変化します。これらの働き蜂は、女王蜂に代わって様々な役割を担い始めます。巣の拡張や修繕、餌集め、幼虫の世話、巣の防衛など、それぞれのタスクを分担して効率的にこなしていくのです。女王蜂は産卵に専念できるようになり、より多くの卵を産むことができるようになります。働き蜂が増えれば増えるほど、巣全体の労働力は飛躍的に向上します。例えば、10匹の働き蜂がいる巣と、100匹の働き蜂がいる巣では、餌を集める能力も、巣を大きくする能力も格段に違います。働き蜂の数が増えることで、より多くの幼虫を育てることが可能になり、それがさらに働き蜂の増加につながる…という正のフィードバックループが生まれるのです。これが、夏場にかけて蜂の巣が急速に成長する主な理由です。特にキイロスズメバチなどは、1つの巣に数千から一万を超える働き蜂を抱えるようになり、その成長スピードは驚異的です。巣盤(幼虫を育てる部屋が集まったもの)の数もどんどん増えていきます。この成長の加速は、最初の働き蜂が羽化してからわずか数日から数週間で顕著になります。「ついこの間まで小さかったのに、あっという間に大きくなった」と感じるのは、この働き蜂の増加による成長の加速フェーズに入ったためなのです。したがって、蜂の巣の対策を考える上では、この「働き蜂が羽化するまでの約1ヶ月間」が非常に重要な期間であり、それ以降は日数が経つごとに加速度的に巣が大きくなり、危険度も増していくということを理解しておく必要があります。