キッチンや食品庫、畳の上などで、体長2~3ミリメートル程度の小さな茶色い虫を見かけたことはありませんか。コロンとした丸っこい体つきで、硬そうな甲羅を持っているその虫の正体は、「イエシバンムシ」かもしれません。シバンムシ科に属するこの甲虫は、私たちの家庭内でしばしば見られる代表的な食品害虫、そして建材害虫の一つです。イエシバンムシは世界中に分布しており、日本でも全国的に生息しています。成虫は赤褐色から茶褐色で、体全体が短い毛で覆われているため、光沢はあまりありません。頭部は下向きについており、上から見ると前胸背板に隠れて見えにくいのが特徴です。成虫は基本的に何も食べず、交尾・産卵を目的として活動します。寿命は環境にもよりますが、通常は数週間から1ヶ月程度です。問題となるのは、その幼虫の食性です。イエシバンムシの幼虫は非常に食欲旺盛で、驚くほど多様なものを食べます。乾燥食品(小麦粉、パン粉、乾麺、ビスケット、香辛料、乾燥きのこ、ペットフード、漢方薬など)はもちろんのこと、畳の藁床(わらどこ)、書籍、ドライフラワー、動物性・植物性の乾燥標本、さらには古い木材まで食害することが知られています。幼虫は白っぽいイモムシ状で、乾燥した餌の中で成長し、蛹を経て成虫になります。卵から成虫になるまでの期間は、温度や湿度、餌の条件によって変動しますが、通常は数ヶ月を要し、年に1~3回発生すると言われています。特に、気温が高くなる春から秋にかけて活動が活発になります。似たような虫にタバコシバンムシがいますが、こちらは触角の先端3節が大きいのが特徴です。イエシバンムシは、食品の汚染だけでなく、畳や建材を劣化させる原因ともなるため、見つけた場合は早期の対策が必要です。その小さな体に似合わず、意外な被害をもたらす可能性があることを知っておきましょう。